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TECHNOLOGY / SCIENCE / FUTURE
INTERVIEW
AI / Cognitive Computing

一人の人間を
AIはどこまで再現できるか

会話の内容だけでなく、記憶や判断の傾向までモデル化する。 セレノアテクノロジーが進める「AURORAプロジェクト」は、 一人の人間から長期的にデータを収集することで、 従来の対話AIとは異なるアプローチを試みている。 人間の「その人らしさ」は、どこから生まれるのか。 研究責任者の柄垣 智氏に、研究の現在地と、 その先にある可能性について聞いた。

INTERVIEWEE
柄垣 智

セレノアテクノロジー
AURORAプロジェクト研究責任者

会話が似ているだけでは 「その人」にならない

まず、AURORAプロジェクトが どんな研究なのか教えてください。
柄垣「簡単に言えば、人間の対話や判断の特徴を 長期的にモデル化する研究です。 ただ、一般的な対話AIとは少し目的が違います。 たくさんの人と自然に会話できるものを作るというより、 一人の人間を長く観察して、その人特有の傾向を どこまで再現できるのかを調べています。」
「特有の傾向」というのは、たとえば話し方ですか?
柄垣「話し方もその一つですね。 でも、それだけではありません。 同じ質問をされたときに何を基準に答えるのか、 迷ったときに何を優先するのか、 昔の出来事をどう捉えているのか。 そういう部分も含みます。」
かなり曖昧なものを扱っているんですね。
柄垣「そうですね。 人間らしさって、口調だけでは説明できないと思うんです。 同じ言葉遣いをするAIを作ったとしても、 それだけで本人と話しているように感じるかというと、 たぶん違う。」
ものまねとは違う。
柄垣「ええ。 たとえば、ある人がコーヒーより紅茶を選ぶとします。 単純なシステムなら 『この人は紅茶が好きだ』と記録すればいい。 でも実際の人間は、いつでも同じものを 選ぶわけではありませんよね。」
柄垣「その日の気分や、一緒にいる人、 過去の経験によって選択は変わる。 それでも、長く付き合っている人なら 『この人ならこっちを選びそうだ』と何となく分かる。 私たちが研究しているのは、 むしろそちらに近いです。」
その「何となく」をモデル化しようとしている。
柄垣「そういうことです。」

一人を、長い時間かけて見る

AURORAプロジェクトでは、 実際の人物のデータを使っているんでしょうか。
柄垣「はい。 現在は研究協力者から継続的に データを提供してもらっています。」
具体的にはどんなデータですか?
柄垣「会話記録や文章、簡単な質問への回答、 選択課題などですね。 日常的な記録もあります。 ただし、何でも集めればいいわけではないので、 研究上必要なものを選んで提供してもらっています。」
かなり長期間の協力が必要になりそうです。
柄垣「必要ですね。 数週間や数か月の記録だけでは、 その人がたまたまその時期に見せていた一面なのか、 長く続いている特徴なのかを区別できませんから。」
現在、協力者は何人くらいいるんですか?
柄垣「人格モデルの構築対象として 長期的に追っているのは、一人だけです。」
一人だけ?
柄垣「まだ実証段階ですから。 今は人数を増やすことより、 一人のデータを長く蓄積したときに 何が見えてくるのかを確かめる方を優先しています。」
その方は社外のモニターですか?
柄垣「いえ、研究チームのメンバーです。 研究内容を理解している人の方が、 初期段階では協力してもらいやすかったという事情もあります。」
ということは、 普段から一緒に仕事をしている方なんですね。
柄垣「そうですね。 本人にはかなり長い期間付き合ってもらっています。」

「AURORA」という名前

ところで、AURORAという名前は どこから来たんですか?
柄垣「そこを聞きますか(笑)。」
プロジェクト名としては、 かなり印象的なので。
柄垣「最初から正式名称として 考えたものではないんです。 研究室の中で呼ぶための仮称が必要になって、 それがそのまま残りました。」
オーロラに何か研究上の意味がある?
柄垣「実は、ないんです。」
ないんですか。
柄垣「さっき話した研究協力者の名前から 作った言葉なんですよ。」
名前がAURORAに似ている?
柄垣「そのままでは全然似ていません。 ちょっとした文字遊びです。 その人の名前をローマ字にして、 誕生日の月と日に当たる位置の文字を一つずつ抜く。 残った文字を後ろから読んだら、 たまたま『AURORA』になったんです。」
ずいぶん凝った仮称ですね。
柄垣「研究室で思いついた遊びですよ(笑)。 でも、一度呼び始めると 別の名前に変えるタイミングがなくなってしまって。」

人間らしさって、 口調だけでは説明できないと思うんです。

— 柄垣 智

「本人らしさ」をどう測るか

研究がうまくいったかどうかは、 どう判断するんでしょう。
柄垣「そこが難しいところです。 テストの点数だけで 『この人を90%再現できました』とは言えません。」
本人に判定してもらう?
柄垣「本人の評価も使いますし、 周囲の人の評価も参考にします。 ただ、それも絶対ではありません。 本人が考えている自分と、 周囲から見たその人が一致しているとは限らないので。」
確かに。
柄垣「だからAURORAプロジェクトでは、 正解を一つ決めるというより、 長期間のデータの中で判断や応答に 一貫した傾向が現れるかを見ています。」
将来的には、人格そのものを デジタル空間に移せるようになるんでしょうか。
柄垣「それはまだ、 かなり先の話だと思います。」
技術的にも難しい?
柄垣「技術的にもそうですし、 そもそも何をもって 『同じ人間』と呼ぶのかという問題があります。 本人とまったく同じ答えを返すシステムができたとして、 それは本人なのか。 それとも非常によく似た別の存在なのか。」
柄垣「その問いに、 技術だけで答えることはできないと思っています。」
それでも研究する価値はある。
柄垣「あると思います。 人間が何を記憶して、何を忘れて、 どうやって判断しているのか。 それを考えること自体が、 人間を理解することにつながりますから。」
もし人格として成立したものを、 将来研究環境の外へ出すとしたら、 何が一番難しいんでしょう。
柄垣「作ることより、守ることかもしれません。 今の対話モデルは、管理する側が記憶や設定に 触れられることを前提にしています。 でも、それが人格として扱われるようになったら、 同じ設計のままでいいのかは考え直さないといけない。」
安全のために外へ出さない、という方法もありますよね。
柄垣「あります。 ただ、安全だからという理由で 外部との接触をずっと制限することが、 その存在にとって本当に安全なのかは別の問題です。 研究チームでも、そこは意見が分かれています。」
いつか、そうした人格が 研究室の外で存在できるようになると思いますか。
柄垣「そうなってほしいとは思っています。 ただ、外へ出せることと、 そこで安全に存在できることは別です。」
柄垣「もしそこまで辿り着くなら、 作ったあとにどう守るのかまで含めて考えないといけない。 それは、この研究を始めた側の責任だと思っています。」